コラム

資本政策解説 シリーズ第2回 ~知らないと怖い!ストックオプションの会計と税務について~

2018年01月14日
タグ:財務会計税務会計経営資本調達・資本政策

こんにちは、浅野です。 

さて、ちょうど本日、資本政策に関するコンサルプロジェクトの一環で、ストックオプションを取り扱う予定なので、だいぶ時間が空いてしまいましたが資本政策に関する解説シリーズ第2回として、今回はストックオプションとその会計処理、そして、知らないとほんとに怖い税務上の取り扱いについて簡単に解説させて頂きます。

※なお本コラムは分かりやすさを優先させるため、多少粗削りであることを予めご容赦ください。個別具体的かつ詳細なご相談は、個別に承っておりますので弊社までお気軽にご相談くださいませ。


■ストックオプション(S/O)とは  
簡単にいうと、一般的に、企業が役員等への将来の労働の対価として、金銭の代わりに将来一定の価格(その時点での株価より割安な価格)で、自社の株式を購入する権利を付与する取引を言います。  付与された役員等はS/Oを権利行使することで、安く自社の株価を買い、市場で高く売却することで、差額分についての利益を得ることができるため、自社の利益の方向性と役員のがんばり、利益の方向性を一致させやすいというメリットがあります。よって役員等へのインセンティブプランとしてベンチャー企業によく使われているスキームです。  S/Oには付与時に無償で付与してもらう無償型と、先日会計処理が決まった有償型があります。

なお 日本公認会計士協会『ストックオプション等に関する会計基準』によると、”「ストック・オプション」とは、自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等(本項(3))に、報酬(本項(4))として付与するものをいう。” そして、”「自社株式オプション」とは、自社の株式(財務諸表を報告する企業の株式)を原資産とするコール・オプション(一定の金額の支払により、原資産である自社の株式を取得する権利)をいう。”とされています。


■ストックオプションの会計処理
詳細は 日本公認会計士協会『ストックオプション等に関する会計基準』、および同適用指針に規定されており、上場を目指す企業はこれに従い会計処理が必要となります。

簡単に概略を解説すると、  

①S/Oが付与された日から権利確定日までの間にかけて、労働対価としてのオプション公正価値相当分(ブラックショールズモデルや二項モデルといった特殊な金融工学の計算に基づき、外部専門家が評価を実施。但し未公開企業は本源的価値に基づくことが可能)を、人件費(株式報酬費用)として段階的に費用処理するとともに、B/S上、『新株予約権』を計上していきます。  

➁そして役員等が権利行使した時に、計上していた『新株予約権』を、その時点で払い込まれた行使価格分の現預金とともに『資本金』に振り替えます。  

➂なお権利行使条件が設定されている場合に、失効した新株予約権は権利失効時に戻し入れ益として計上されます。  ④いったん付与されたS/Oの公正価値の見直しは行わず権利行使見込のS/Oの数を毎期見直しし、毎期の費用計上額を計算していくことになります。

 最近、話題の有償ストックオプションについても、2018年4月以降の発行分から、無償ストックオプションと同様に公正価値相当分について費用処理されることになった旨の報道があり話題になりましたね。


■ストックオプションの税務(個人の授与者の観点から)
さてここからは、知らないと本当に怖いストックオプションにかかる税務上の取扱いを、これにより大きな影響を受ける、付与対象個人(個人のストックオプション授与者)の課税関係の観点から解説します。

ストックオプションの税務には2パターンあり、原則的な取扱いと、税制適格要件を満たす場合の例外的な取扱いの2種類がありますので、①課税時期、➁課税対象、➂課税額の観点から、以下でそれぞれ比較しながら解説します。


1)原則的な取扱い  

 ①課税時期:権利行使時  
 ➁課税対象:①の時点の時価と行使価格の差額  
 ➂課税額・税率:給与課税(総合課税):最大約55%(住民税含む)

このように原則的にS/Oの課税は、給与として課税されることから、まず注意すべきは➂の課税額です。即ち、S/Oの利益はそのほかの給与等の所得と合算され、累進税率による課税となります。S/Oによる利益は数億円~数十億円に上ることも多いことから、課税額が(住民税も考えると)いっきに最高税率55%となる危険があるため注意が必要です。半分以上も税金でとられてしまっては、せっかく努力の対価として利益を得られても、その効果は半減してしまいますね!

また、①の課税時期についても注意が必要です。あくまで権利行使のタイミングで課税をされてしまうので、実際に株式を売却しなくても課税がされてしまいます。そのため、たとえば行使時から実際の売却時の間に株価が大幅下落していた場合には、税金のほうが多くなってしまう、いわゆる逆ザヤ状態になる、という危険もあります。

※なお、厳密には売却時には、①の時価と実際売却時の売却価額との差額について譲渡益課税(分離課税)が生じますが、説明簡略化のため説明割愛。


2)例外的取扱い(税制適格ストックオプション)

 ①課税時期:株式売却時
 ➁課税対象:売却価額と行使価格の差額に対して課税
 ➂課税額・税率:株式譲渡所得課税(分離課税):20.315%

まず1)の原則的な取扱いと比べ、特筆すべきは➂の課税額です。累進課税ではなく、住民税を含めても20.315%(所得税/復興税15.315%、住民税5%)で一律です。これは原則法の55%と比べると、大変大きな税金の節約効果となります。 また、➂課税時期についても、S/Oの権利行使により取得した株式を実際に売却するまでは課税されないことから、原則的取扱いのように、逆ザヤになるリスクもありません。

こうした理由から、ストックオプションを付与する際には、出来る限り税制適格ストックオプションになるように設計すべきです(なお有償ストックオプションは売却時分離課税のためこの議論は不要です)。

ただし税制適格とするためには以下の要件を満たす必要があります。

(要件)
(1)取締役や使用人であること。   ※株式保有割合1/3以上の大株主や、監査役は対象外!
(2)無償ストックオプションであること   ※金銭払い込みのある、有償ストックオプションは対象外!
(3)契約において以下の要件が定められていること   
  a. 付与決議日後、2年を経過した日から10年を経過する日までに権利行使すること   
  b. 年間の権利行使価額の合計額が1,200万円を超えないこと
    (※権利行使価格であって、ストックオプションから生じる利益ではない)
  c. 権利行使価格は付与時の株式時価以上であること  
  d. 当該ストックオプションを他人に譲渡はしてはいけないこと  
  e. ストックオプションの行使に係る新株発行または株式移転が会社法第238条第1項に定める事項等に反しないで行われること  
  f. 発行会社と金融商品取引業者または金融機関との間で一定の管理等信託契約を締結し、当該契約に従い、一定の保管の委託または管理等信託がなされること


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