コラム
(第3回)テレワーク時代の内部統制。~それでもハンコでなければダメなのか?~
コラム『テレワーク時代の内部統制』、第3回目は内部統制実務の現場でよくご相談頂くハンコに関するご質問について。前著でも記載したのですが、現場担当者の方からよくご相談いただくご質問のなかには、
「(監査法人や内部監査人等から)なんでもかんでもハンコを残せと言われるが、すべての書類・伝票にハンコを残さなければならなのか?」
というご相談もあります。
コロナウイルスの蔓延に伴い、リモートワークが急速に普及し、官庁でも脱ハンコ体制が検討されるようになり、「脱ハンコ出社」というキーワードが市民権を得てきた今。
監査法人の監査手続自体がリモートで行われるようになってきていますので、さすがに今さら、「ハンコがなければ認めません」という監査法人は少なくなったのではないかと期待していますが。
浅野は現在、企業の『脱ハンコ』に向けたプロジェクトもお手伝いさせていただいていますが、その過程でこれまで日本企業がなぜハンコを重用してきたのか考察すると、大きく以下の3つの理由に分けられると整理しています。
①法律で書面押印が義務付けれているケース
②自己防衛のため(法律上の意思決定内容や立場を明確にするため)
➂社内コンセンサスの明確化
では、なぜ内部統制監査の過程で証憑上のハンコを要求されるのか、ですが、監査の場合は➂を確認するためだと考えられます。
すなわち監査でハンコの確認を要求される趣旨は、第三者である監査法人(や内部監査人)が、現場担当部署による承認やチェックといったコントロールの整備・運用の事実を事後的に確認する手段が必要であるからです。
その意味で、ハンコがなかったとしても、別の手段でコントロールの実績を証明することができれば、ハンコにこだわる必要はないと考えられます。
例えば、再実施や観察手続等、証憑閲覧以外の手続によって直接的に内部統制の整備・運用状況を確認するほうが適切な場合もあるでしょうし、ワークフロー・システムの導入によって、内部統制の証跡を可視化していくことも可能です。
ただしワークフロー・システムの導入に際しては、別人によるなりすましや、不正改ざん、事後承認、データ消失など、IT利用時でも留意すべきリスク、ないしIT利用に伴う新たなリスクが生じるため、たとえば以下のような点に注意が必要です。
(ワークフロー・システム利用上の注意点例)
・ 承認者・承認日付を記録した承認ログは、すべてタイムリーに記録として残される仕組になっているか
・ 承認ログは容易に改ざんされない仕組みになっているか
・ 承認者のIDが共有されたり、別人に使用されない仕組みになっているか
・ システム上、実行された業務や取引が網羅的に保存され、事後的に抽出・追跡可能になっているか(母集団の完全性を保持しているか)
・ 承認対象となる業務や取引が、承認レベルなど、適切な区分ごとに整理され、必要に応じて網羅的に抽出可能になっているか(母集団の完全性を保持しているか)
・ 承認対象となった業務に関するデータが改ざんされたり、意図せず失われない仕組みになっているか
最近ではクラウド型のワークフロー・システムも登場してきていますので、ワークフロー・システム導入検討に際しては、クラウドに保管するデータの管理など適切なセキュリティが担保できているか、IT全般統制の評価に耐えうるかなど、内部統制対応の観点も含めて検討される必要があるといえます。
また、書類の要所に、コントロール実施者(承認者)のチェックマークやサイン、日付が残されているような場合も、証跡としてハンコにこだわる必要はないと思われます。
事前に上長や担当者が使うペンの色やサインについて、社内で取り決めと登録をしておけば、チェックマークとサインを残すことは、ハンコなどよりも、むしろよほど証拠力が高い証跡といえるのではないでしょうか。
また、すべての伝票上にサインを残すことが難しい場合には、伝票上は少なくともチェックマークなどの証跡を残しながら、サインはチェック項目などを記したカバーシートを作成し、そこにサインと日付を残す方法でもよいのではないかと思います。
(さいごに)
春ごろに出版を予定している新刊『決算・監査コストの適正化マニュアル(中央経済社)』では、本コラムでご紹介したワークフロー導入時の留意点のほかにも、テレワーク時代の内部統制や業務の効率化のためのアイデアをご紹介予定です。ご興味頂けたようでしたら是非新刊もチェックしてくださいね。
ワークフロー導入時の内部統制の構築のご相談も承っております。
https://www.collegia-intl.com/inquiries.html
それでは今回も最後までお読みくださりありがとうございました!
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