コラム

なぜ貴社の内部統制対応が行き詰まるのか 5

2018年09月07日
タグ:内部統制コンサルティング会計コンサルティングJSOX

さて前回では、弊社のコンサル経験上、内部統制対応に行き詰まっている会社さんの多くに以下の6つの誤解があることをお話ししました。
そこで今回はそれぞれの誤解について解説したいと思います。

誤解その1:内部統制に付加価値はないと思っている

誤解その2:監査法人を当てにしている

誤解その3:内部統制対応は文書化すれば終わりだと思っている

誤解その4:内部統制対応はギリギリで良いと思っている

誤解その5:システムを導入すれば対応は不要になると思っている

誤解その6:本社のみ・内部統制チームのみで完結すると思っている



誤解その1:内部統制に付加価値はないと思っている 

これは特に経営者の方に多い誤解ですが、「内部統制には付加価値なんてない」という考え方は大間違いで、実際には「内部統制には付加価値がないどころか、下手に対応すると、自社の事業価値を大幅に毀損しかねない危険性をはらむもの」というぐらいの認識をしておいて頂いた方がよろしいのではないかと思います。

当たり前ですが、内部統制が売上を作ってくれることもなければ、目に見える形でコストを削減してくれる訳でもありません。そういう意味で内部統制に付加価値はない、というご意見はごもっともだと思います。そしてこういった誤解に端を発し、内部統制チームを組成するに当たり、会計や現業、ITなどに精通しているエース人材は関与させず、これまで会計の知識・経験も、ましては監査対応の知識・経験もない従業員を、社内から適当に数名集めてきてしまう、というケースがときどき見受けられます。中には、「内部統制チーム(または内部統制室、内部監査室)は、窓際族の受け皿」、なんて豪語している企業も噂に聞いたことがあります。

 

たしかに内部統制は積極的に付加価値を生むものではありませんし、内部統制評価は直接的に利益を生み出すものではありません。しかしながら本当に注意すべきは、下手な内部統制が社内に組み込まれることにより、また過剰な内部統制対応を現業部門に強いることで、半永久的に自社の事業のスピードが失速し、莫大な機会損失を生みかねないものである点です。もし過剰な内部統制を社内の各現場に組み込んでしまったら、ブレーキばかりでビジネスが全く前に進まなくなってしまい、引いては貴社の業績の足かせにもつながりかねません。他方で全く内部統制が機能しない場合は、仮に大きな誤りや不正が見逃され、結果として会社に多大な損害を生じさせる可能性可能性もあります。

また、適切にプロジェクトマネジメントをするに足りる知識・経験・人脈のない人材を登用してしまうと、内部統制の重要な不備が外部に公表され、また監査法人からの適正な意見を受けられない結果につながりかねず、自社の評判を落としかねない結果となります。

このような観点からは、内部統制は、節税対策や訴訟対策が重要であるのと同様、「傷口の最小化」的アプローチが必要です。

 誤解その2:監査法人を当てにしている

「内部統制は監査法人の監査意見をもらうのだから、監査法人の先生方の指導に基づいていれば大丈夫だろう。」とお考えになられている企業様は多いのではないでしょうか。この考えには一理あります。なぜなら、たしかに監査法人は貴社の事業や会計上の論点について熟知しているはずですし、監査法人の指導どおりに進めることができれば、監査法人は適正意見を出してくれるはずだからです。しかしながら見逃してはいけない問題点としては、その見返りに、企業自身に多くのノウハウ取得の時間やプロジェクトをこなすに足る圧倒的なマンパワー・労力や負荷が必要となる点、また企業の経営理念や意向が必ずしも考慮されない業務の在り方が(実質的に)強要される可能性がある点です。

そしてそれは多くの場合、監査法人の役割に対する誤解からまれると考えられます。その結果、監査法人に過度な期待を寄せているケースが非常に多いように思えます。我々にご相談頂くきっかけとして、「監査法人に提案されたとおり内部統制アドバイザリー契約をお願いしたのだが、具体的には何も手伝ってくれない」、という不満ともとれるお悩みからスタートするケースが割と多くありますが、これは監査法人の本来の役割に対する誤解が原因だと考えています。監査法人の役割、なぜ当てにしてはいけないのか、という点については次節で詳細に解説しますが、監査法人を当てにした結果、プロジェクトがなかなか思うように前に進まなかったり、また逆に監査法人の言いなりになってしまうことで、過剰な内部統制評価手続を強いられたり、過剰な内部統制構築を強いられるケースが往々にしてあるように思われます。

 

 誤解その3:内部統制対応は文書化すれば終わりだと思っている

これもプロジェクトの初期段階に誤解の多い点ですが、内部統制対応は、後述の、いわゆる3点セットと呼ばれる文書を作成することがゴールではありません。むしろ、文書化作業(3点セットの作成)は、本番である評価作業の下準備に過ぎないのです。そして企業が上場している限りにおいては文書化作業の後に待ち受けている評価作業が、半永久的に、原則的には毎年繰り返し実施されることになるのです。また評価手続の結果発見された不備は、現業部門に指摘をして改善し、改善結果をモニタリング・再評価していかなければなりません。

 このようなことから、内部統制対応を導入直前期や導入期からスタートするなど、ギリギリにスケジューリングしてしまうと、「期限までに手続が間に合わなくなる」、「期限までに不備の改善が間に合わなくなる」という結果につながる危険があります。まだ業務の在り方が確立していないベンチャー企業においては、特にその危険性が高いといえます。

 

 誤解その4:内部統制対応はギリギリで良いと思っている

 これも多くの上場準備企業で見受けられる点ですが、「内部統制はギリギリまで開始しなくても良い」という考え方です。実際、それでも間に合う企業もあるので、結果論としてはギリギリに開始することが決して間違いではないのかもしれません。しかしながら、下記理由により個人的には余裕を持ったスタートをお勧めいたします。 というのも良く考えてみてください、もし上場後は、上場している限り半永久的に内部統制対応をし続けなければならないわけです。とするならば、開始時期を1、2年早めることぐらいは長期的な視点で見れば、さほど大きな問題ではないはずです。むしろ、ギリギリに開始したことで、初年度に評価手続が間に合わなかったり、重要な不備が残されたまま、内部統制報告書の開示期限を迎えるリスクが高まることの方が、企業にとってはよほど重要だと考えます。

 ところで、現在、新規上場後3年間は、内部統制の監査が免除となる規程があります(金商法第193条の2第4項第4号)。これを理由に、「新規上場企業は3年間内部統制対応が免除されるので、慌てる必要はない」と誤解されることがありますが、免除されるのはあくまで「監査証明」のみであって、企業が内部統制報告書を提出すること自体は、上場初年度から義務付けられている点に変わりはありませんので、注意が必要です。

 また上場日の属する事業年度の直前事業年度に係る連結貸借対照表もしくは貸借対照表に資本金として計上した額が100億円以上、又は当該連結貸借対照表もしくは貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が1,000億円以上の会社は適用除外とされている点も注意が必要です(内部統制府令(平成19年内閣府令第62号)第10条の2)。

 

 

 誤解その5:システムを導入すれば対応は不要になると思っている

 システムとは、具体的には例えば会計システムやERP(基幹業務システム)、内部統制評価ツールなどがあり、中には声高らかに「内部統制完全対応!」と謳われている会計システムもあります。これらの売り文句はときに「このシステムを導入すれば内部統制対応は不要になる」という誤解を生む可能性があります。しかし残念ながら、どのようなシステムを導入したからといって、企業の内部統制対応が不要になる訳ではありません。

 というのも、システムはあくまで本来人間が行う業務を補完する手段・ツールに過ぎないからです。リスクマネジメントの観点からは、(リスクの所在が変わることはあるものの)本質的にはリスクに対する低減措置を、人が内部統制を実施しようが、システムが実施しようが関係はありません。もし特定のリスクを低減するための内部統制を、人間に代わってシステムが実施しているのであれば、システムによるその内部統制の整備・運用状況を評価していく必要性が生じます。またシステムを利用することによって新たに発生するリスクについても評価の検討が必要となります。

 (なおシステムの売り文句の“内部統制対応”とは、内部統制評価や内部統制監査に耐えうるアクセスや操作ログが残され、抽出可能、というような意味合いが多いようです。実際、IT統制を評価する際に、操作ログがとれないシステムが、評価や監査上、大きな問題点となるケースがあります。)

 

⑤    誤解その6:本社のみ・内部統制チームのみで完結すると思っている

内部統制報告制度は第一義的には企業の代表者が行います。そのため内部統制チームは代表者と適時適切に、内部統制に影響を及ぼし得る重要な事項について情報連絡ができる必要があります。

しかしながら、実際には極秘裏に進められていたM&Aのプロジェクトを知らされておらず、評価期限の直前に、新たに評価対象になるような重要な子会社が発生したり、組織再編により評価していた拠点が統廃合され、評価手続が期限内に終わらなくなる、といったケースがあります。

また、「本社や国内子会社の担当者には、事前の周知徹底を行い、また制度への理解を深めさせる教育訓練を実施したものの、海外子会社については完全にノータッチ」というケースも中にはあります。もっとひどい場合だと、「本社の関係しそうな部署にすら、なんら連絡していない」なんていうケースもありました。

 内部統制報告制度の評価範囲は本社のみ、内部統制チームのみで完結するものではありません。多くの場合、評価範囲や評価項目の多寡はあっても、国内・海外問わず、子会社を巻き込んで進めていかなければならないのです。そして評価の過程では、子会社の担当者に文書化のためのヒアリングや資料提供の協力を仰ぎ、評価手続の結果発見された不備項目については適宜に伝達し、そして設定した期限までに不備の改善を求め、改善された不備項目については再評価の手続が必要となります。

 そしてM&Aや組織の再編、システムの乗せ換えなどが予定されているのであれば、事前に情報を察知し、評価範囲への影響を検討し、評価計画の修正を検討しておく必要がある訳です。

 そのため、内部統制対応は本社のみで完結すると誤解していると、後々グループ会社の協力を得る段取りがつかず、大変な目に合う危険があります。

 




浅野 雅文アサノ マサフミ
代表取締役社長 / 公認会計士 / 税理士
クラス マネージングディレクター