コラム

なぜ貴社の内部統制対応が行き詰まるのか 6

2018年09月14日
タグ:内部統制構築

さて前回では、弊社のコンサル経験上、内部統制対応に行き詰まっている会社さんの多くに共通の6つの誤解についてご説明しました。

第6回目の今回は、そういった誤解を踏まえ、内部統制対応を上手く進めるためのポイントをいくつかご紹介させて頂きます。


(1)  適切な社内チームメンバーの選定と、経営者との活発なコミュニケーションの確保

①    適切なメンバー選定

先述のとおり、内部統制には付加価値がないどころか、下手に対応すると企業の事業価値を大きく毀損しかねないリスクをはらんでいます。そのため、内部統制チームメンバーとして、適当に余剰人員や窓際社員をアサインする、などということは決して考えないでください。ただでさえ仕事ができないから窓際に追いやられているのだと思いますので、そのような方を内部統制チームメンバーにしてしまったら、下手するとグループ全社レベルで業務体制をメチャクチャにされてしまいかねません。とにかく会計・業務・ITといった専門分野に基本的知識がある方。そしてもし貴社がグローバルに事業展開している企業の場合は、英語対応も含め、社内・グループ企業とのコミュニケーションを適時適切にできる人材を内部統制チームに参画させるべきです。ただし、全てを一人でカバーできる人材はそうはいないと思いますので、専門領域ごとにバランスの良いメンバー選定を行い、社内に適任者がいなければ、コンサルタントを利用して社内に足りない穴を補完・代替させることも一案です。

なお誤解されがちですが、内部統制報告制度は“会計の業務”です。

そのため、会計・業務・ITのなかでも、特に会計に対する知識は重要といえます。会計業務経験(会計基準や会計監査に対する知識)がない人材をアサインしてしまうことはプロジェクトが行き詰まるもっとも近い道とさえ言っても過言ではないと思います。

 

②    経営陣との活発なコミュニケーションラインの確保

 内部統制報告制度における有効性の基準日は、各事業年度の決算期末日です。しかしながら、決算期末日を待って評価作業を開始していたら当然ですが内部統制報告期限(=事業年度経過後三ヶ月以内)には間に合いません。

 そこで通常は期中の早い段階から、内部統制チームが計画的に評価範囲を決定し、評価手続を進める訳ですが、ときとして経営陣と内部統制チーム等の間でM&Aなどの機密情報や、期間業務システムのリプレース(入れ替え)に関する情報が共有されていないケースがあり、それがきっかけでトラブルになるケースがあります。

 具体的には、期末直前にM&Aにより重要な子会社が誕生してしまい、評価範囲の再検討・変更が必要になってしまうケースや、新システムへの変更に伴い、評価対象の業務プロセスが抜本的に変化してしまうことで、内部統制対応のやり直し作業が必要になるケースです。

 内部統制報告では、期末直前の突発的な事象の発生など、やむを得ない理由により期末日までに重要な評価作業を終えられない場合も想定されているものの、評価作業を終えられなかった事実や理由を外部に公表する必要があります。また、もし突発的な事象が期末直前でない時期(たとえば上半期など)に発生した場合には、やむを得ない理由としては認められない可能性もあるため、内部統制対応のやり直し作業や二度手間によるコストの増加が生じます。

 こういった無駄なコストや手間を省き効率的な内部統制対応を行う観点からは、日頃から、経営者と内部統制チームは定期的なコミュニケーションの機会を設け、出来る限りM&Aなどの機密情報やシステムリプレース計画も含めて、内部統制の評価に影響を及ぼす重要な事項については共有しておくことが望まれます。

 

(2)  あくまで「会社主導」であること

内部統制対応を上手く進めるために重要な次のポイントは、監査法人対応です。監査法人対応でしてはならないのは、「どうしたら良いでしょうか?」という丸投げの質問です。丸投げの質問をしてしまったが最後、監査法人は最も保守的な対応をするよう貴社に提案してくるでしょう。監査法人の敷いたレールに乗っかり、言われるがままに頼まれたことをするのではなく、あくまで主体性をもって「会社主導」でプロジェクトを進めていくことです。ただし後述のとおり、企業が作成する内部統制報告書は、最終的には監査法人の監査を受ける必要があります。そのため、企業は監査法人と適宜協議しながら内部統制対応を進めていく必要があります。よって、監査法人と協議する際には「オープンクエスチョン・丸投げの質問」を行うことで「藪蛇」にならないよう、理論的根拠をもって自社の意向をぶつけるイメージで上手にコミュニケーションを行う必要があります。

 

(3)  プロジェクト開始はなるべく早く

おそらく内部統制対応の中で、最初に最も大きな負荷が発生するのが、業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクス(RCM)に代表される、いわゆる3点セットと呼ばれる調書を作成する、文書化作業です。その意味で内部統制対応として文書化作業が特に注目されることも理解できます。

しかしながら内部統制対応の流れは、大きくイ)計画→ロ)文書化→ハ)評価→二)不備の改善→ホ)(不備の改善状況の)再評価→ヘ)内部統制の有効性の総合的評価(内部統制報告書の作成)の作業に分類され、文書化だけではないことがお分かりになるかと思います。そしてロ)文書化以外の業務、すなわちイ)、およびハ)~ヘ)の各作業は、現状のルールに基づくと、上場後、上場している限り半永久的に毎期継続的に見直し、ないし対応が必要となります。

(図1-3-2)

 

 そのため上場準備のスケジュール、内部統制プロジェクトのスケジュールを計画するに当たり、文書化までをゴールとして考えるのではなく、文書化を終えた後に評価作業(期中に整備と運用状況の評価、また期末直前に不備の再評価を行う時間)と、期中段階で発見された不備の改善に要する期間を十分に確保できるよう、なるべく早い時期からプロジェクトをスタートすることを強くお勧めします。

 

(4)  経験者・外部有識者の登用

監査法人を当てにできないにも関わらず、社内にも十分な知識を有する人材がいないとなると、企業はどのように対応すべきでしょうか。監査法人に対して「会社主導」で理論的に対抗しながら、スピーディかつ確実にプロジェクトを進めていくための選択肢としては、

イ)社内に(監査法人等)経験者を入れる(採用する)か、

ロ)外部の有識者(コンサルタント)に依頼する

ことが考えられます。ただし、いずれもメリットとデメリットはありますので、貴社の置かれた状況に応じて選択、ないしはミックスしながら上手く対応されることをお勧めいたします。

 

(図1-3-3)

 

 

なお外部コンサルタントを利用する際、内部統制コンサルティング業務を提供している業者には、IT系コンサルタントや、業務改善系コンサルタント、ISOコンサルタント、CIA(公認内部監査人)、CISA(公認情報システム監査人)など様々ですが、公認会計士や会計事務所系の、いわゆる会計コンサルタントに依頼されることを強くお勧めいたします。そして会計コンサルタントといっても、税理士ではなく、「公認会計士」である必要があると考えます。なぜならば、内部統制報告制度は、会計の業務であるばかりでなく、監査法人との対峙が必要となる業務だからです。そのためには、コンサルタントには、税務基準ではなく、一般に公正妥当と認められる会計基準や、公認会計士による会計監査の知識・経験、監査法人の思考回路を理解している必要があると考えられるからです。

 

ところで、私自身は監査法人を退職後、ずっとコンサルタントをしているため、当然ながらコンサルタントとして企業の内部統制プロジェクトに関わる機会が多いのですが、その場合であっても、完全なるアウトソースではなく、経営陣やグループ企業を含む、企業内部に精通している方をリーダーとしてアサイン頂くようお願いするようにしています。たとえ実質的なプロジェクトマネジメントや評価作業、調書作成作業は我々が行う場合でもです。その意味でリーダーは、いわゆる「番頭」的な位置づけに近いかもしれません。リーダーを置いて頂く理由は、ロ)コンサルタント利用のデメリットを補うためですが、企業内のコミュニケーションラインを確保し、事業に関する知識不足を補って頂くためです(我々の事業理解の習得を補助)。さらに上場準備中の企業は特に、上場審査時に、アウトソースを利用するに際して、会社が主体性をもって、アウトソースした業務の内容を理解し、社内で管理する仕組みが整備されているかチェックされるためです(新規上場ガイドブック 2018 マザーズ編 東京証券取引所、上場審査等に関するガイドラインⅢ. 4(2)参照)。

 

(5)  無駄を省きたければ「急がば回れ」

 (2)では過度な対応要求を回避し、内部統制対応にかかる負荷を減らしていくために、監査法人との協議には理論武装が必要である点を述べました。では理論武装とはどのようにすべきなのか。そのポイントは「急がば回れ」だと考えます。

 監査法人は、内部統制の基準に沿わない会社の対応を見落とすことで、自身に訴訟や行政処分の火の粉が付くことを何よりも嫌います。ですから、理論的でなかったり、主体性のない会社に対しては警戒を強め、監査手続の強化を図ったり、より保守的な作業を依頼するようになります。他方、監査基準上も、貴社の内部統制の品質が信頼できるものであれば、その分監査手続を軽減しても良い旨規定されていますので、「やるべきことをしっかりやる」「その記録をしっかり残す」企業に対しては、監査法人も監査手続を最小限で済ますことができるのです。

そのため内部統制の負荷を減らしたいのであれば、一見矛盾するようにも思えますが、たとえ面倒で時間を要しても、しっかりと基準を理解し、会社自身が主体性をもって、第一義的に基準の趣旨に沿った必要十分かつ適切な評価手続を実施し、かつ、その過程や結果を監査法人にも理解できるレベルでしっかりと記録していくことがとても重要です。そうすることで、監査法人との信頼関係も強固なものになりますし、無茶な要求もされなくなるはずです。その結果、監査法人の監査手続自体も減り、社内の監査対応の負荷も減るので、全体として内部統制対応にかかる負荷やコストを減らすことができるのです。

 

浅野 雅文アサノ マサフミ
代表取締役社長 / 公認会計士 / 税理士
クラス マネージングディレクター